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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)3108号 判決 2000年3月03日

原告

伊東頼子

ほか二名

被告

井柳茂

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

1  被告は、原告伊東頼子に対し、金五七二万六七八五円及びこれに対する平成一一年四月四日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告丸野三奈子及び原告伊東理恵子に対し、それぞれ金二八六万三三九二円及びこれに対する平成一一年四月四日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実(証拠により認定した事実については証拠を掲記する。)

1(本件事故)

(一)  日時 平成九年一一月二三日午後六時一〇分ころ

(二)  場所 兵庫県尼崎市道意町六丁目七四番地付近道路(尼崎港・甲子園線)

(三)  加害車両 被告運転の大型貨物自動車(浜松一一く八一一、浜松一一け一二四三)

(四)  被害車両 亡伊東秀美(昭和八年一月二八日生)(以下「亡秀美」という。)運転の普通貨物自動車(大阪八八す九四三七)

(五)  態様 駐車禁止区域に駐車中の加害車両後部に被害車両前部が追突したもの

(六)  結果 亡秀美は、十二指腸破裂、外傷性膵炎等の傷害を負い、兵庫医科大学病院に搬送され、五二日間入院治療を受けたが、平成一〇年一月一三日午前九時四〇分、多臓器不全のため死亡した(死亡時六四歳)。

2(相続)(甲三の1、2)

原告伊東頼子(相続分二分の一)は亡秀美の妻、原告丸野三奈子(相続分四分の一)は亡秀美の長女、原告伊東理恵子(相続分四分の一)は亡秀美の二女であり、亡秀美を相続した。

3(損害填補)

自賠責保険金 二四九〇万円

二  争点

1  本件事故態様・責任・過失相殺

(原告ら)

(一) 亡秀美は、被害車両を運転し、本件事故現場付近の道路を北から南へ走行し、道意町六の交差点(以下「本件交差点」という。)に差し掛かり、同交差点を右折して尼崎港・甲子園線を西に向かって進行すべく、信号に従って右折を開始し、右折を終えて、被害車両が西方向へ向かって間もなく、交差点から近い位置に違法駐車してあった加害車両に衝突したものである。

(二) 本件事故発生時間は、一一月下旬の午後六時で、薄暮の中荷台部分の低い大型貨物自動車が、無灯火で駐車されていたため、亡秀美は、右折の際の安全確認、ハンドル操作に夢中で進行方向に障害物があることに気づくのが遅れてしまい、被害車両前部を加害車両後部に衝突させたのである。

(三) したがって、右のような時間帯に、交差点に近接した場所に、無灯火で、大型貨物自動車を車線一杯に駐車した被告には、少なくとも五割の過失があり、民法七〇九条に基づく損害賠償責任がある。

(被告)

(一) 加害車両は、本件交差点から西へ約三一五メートルの位置に駐車していたから、亡秀美にとって右折の際の安全確認やハンドル操作等が影響して、その前方に位置する車両を見損なうような場所ではなかった。

(二) また、加害車両は、本件事故当時、テールランプ(駐車灯)を点灯して駐車していた。

(三) したがって、本件事故は、亡秀美の脇見ないし居眠り等によって発生した自損事故と見るべきである。

仮に、被告に過失が認められるとしても、被告の過失割合は、一ないし二割が限度である。

2  損害

(一) 治療費 四六九万七四三〇円

(二) 入院雑費 六万七六〇〇円

1300円×52日

(三) 付添看護費 二八万六〇〇〇円

5500円×52日

(四) 交通費 五万八五〇〇円

(五) 葬儀費 一二〇万円

(六) 休業損害 一〇七万三八〇〇円

年収七五三万七五八七円(日額二万〇六五〇円)

(七) 逸失利益 三八四四万八四七七円

753万7587円×(1-0.3)×7.287

(八) 入院慰謝料 八七万五三三三円

(九) 死亡慰謝料 二五〇〇万円

(一〇) 物損(車両) 一〇〇万円

第三判断

一  争点1(本件事故態様・責任・過失相殺)

争いのない事実1(本件事故)に証拠(甲五ないし一一、乙一、二、三の1ないし16、弁論の全趣旨)を総合すると、次の事実が認められる。

1  本件事故現場は、片側二車線の歩車道の区別のある東西方向の道路(尼崎港・甲子園線)(以下「本件道路」という。)で、道意町六の交差点(本件交差点)の西方約三〇〇メートル付近の駐車禁止区域であり、直線道路で前方の見通しを妨げるものはない。

2  亡秀美は、被害車両を運転し、本件交差点を右折して本件道路を西に向かい進行し、約三〇〇メートル進行して、第一車線をほぼ塞ぐ形で歩道寄りに駐車していた加害車両後部に被害車両前部を衝突させた。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

右に認定の事実によれば、駐車禁止場所に第一車線をほぼ塞ぐ形で加害車両を駐車していたことが本件事故発生の一端を担っているといえるから、被告に本件事故による損害賠償責任は肯定することができるが、本件事故現場は、亡秀美が右折した本件交差点から約三〇〇メートルは離れており、その間は直線道路であるから、本件事故日時等を考慮しても、本件事故発生の原因の大半は亡秀美の前方不注視にあるというほかない。

右事情からすると、本件事故についての過失割合は、亡秀美八に対し、被告二とするのが相当である。

なお、原告らは、本件事故発生場所は本件交差点付近であった旨主張するが、交通事故証明書(甲一)の本件事故発生場所の記載、警察官作成の実況見分調書添付の交通事故現場見取図の記載からして、本件事故現場は、前記認定のとおりであり、本件交差点付近であるということはできない。

二  争点2(損害)

1  治療費 四六九万七四三〇円(甲一六)

2  入院雑費 六万七六〇〇円

1300円×52日=6万7600円

3  付添看護費 二八万六〇〇〇円

5500円×52日=28万6000円

4  交通費

右は付き添った妻の交通費であるところ、これは、付添看護費の算定に当たり考慮済みであって、別に損害として算定されるものではない。

5  葬儀費 一二〇万円

葬儀費は、一二〇万円と認めるのが相当である。

6  休業損害 三九万四二四五円

証拠(甲四)によれば、亡秀美は、運送業を営んでおり、平成九年の申告所得は一五五万五〇五六円であり、これに固定経費<1>租税公課五万七六〇〇円、<2>損害保険料一七万七四八〇円、<3>修繕費三三万五八四三円、<4>減価償却費二九万二一一九円、<5>地代家賃三四万九二〇〇円を加えた合計二七六万七二九八円が休業損害の基礎収入とすべきであるところ、その五二日分は、次のとおり、三九万四二四五円となる。

(276万7298円/365日)×52日=39万4245円

7  逸失利益 七七三万七三三六円

亡秀美の本件事故前の所得は一五五万五〇五六円であり、死亡時六四歳であったから、就労可能年数を九年間、生活費控除率を三割として、ライプニッツ式計算法により逸失利益の原価を算定すると、次の計算式のとおり、七七三万七三三六円となる。

155万5056円×(1-0.3)×7.108=773万7336円

8  入院慰謝料 八〇万円

亡秀美の受傷状況、入院期間からすると、入院慰謝料は八〇万円と認めるのが相当である。

9  死亡慰謝料 二五〇〇万円

亡秀美の死亡慰謝料は、二五〇〇万円と認めるのが相当である。

10  物損(車両)

被害車両の損傷状況及び損害額を示す証拠は全くないから、物損の請求は認めるに至らない。

11  以上を合計すると、四〇一八万二六一一円となる。

三  右四〇一八万二六一一円から、その八割を過失相殺すると、八〇三万六五二二円となる。

自賠責保険金二四九〇万円が既に支払われているから、亡秀美の損害は填補済みである。

四  よって、原告らの請求はいずれも理由がない。

(裁判官 吉波佳希)

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